巡回技術指導について

日中緑化交流基金 専門調査員 樋口正義
 
はじめに
 平成12年度から日中緑化交流基金による植林緑化事業が展開されていますが、この植林緑化事業は、多種多様な自然環境の中で実施されていることから、幾多の困難が予想され、事業目的の完遂に万全を期すためには、計画・実行・照査を的確に行い、地域に適合した効果的な運用が図られることが肝要です。
 本来、プロジェクトの管理は、第一義的には助成事業実施団体が担うべきものですが、上記の事情から、植林緑化事業を実施している全てのプロジェクトに対し、助成事業実施団体の行うプロジェクト管理を補完するものとして、日中双方(日中緑化交流基金・中国国家林業局対外協力プロジェクトセンター)が分担し、照査を実施しています。
 平成21年度、日中緑化交流基金による照査、すなわち巡回技術指導は14プロジェクトを対象として実施、中国国家林業局対外協力プロジェクトセンターによる照査は60プロジェクトを実施しました。
 
巡回技術指導の実際
 現地での調査は、植林計画(面積・植栽樹種の選択・保育保護・助成終了後の保育・保護・管理)・実行状況の適否、活着率・成長量等の検証、土壌調査などを行い、その後に技術交流会議(座談会)を開き、技術的問題等について議論することとしています。
 土壌調査においては、土壌養分を簡易な測定方法で検出し、現地での施肥量の決定の参考に供するようしています。また、土壌硬度計を用いて、土壌の硬さを測定し、苗木の根の「土壌への入りにくさ」について説明し、植え穴の大きさや質の決定の目安とするよう提案しています。
 さらに活着率調査では、通常、植林地に生存している植林木の量的な把握を行うこととなりますが、その植林木の「元気の良さ」など質的な要素については、主観的になりがちで判断が難しいので、「活力度」調査を行い、これを補完しています。この方法は、標準値を設け、標準地内の植林木の樹勢・枝の伸張・梢端の枯損・枝葉の密度・葉の色の5つの要素に着目し判定基準を設け総合的な評価を行うものです。同一地域の樹種間の「活力度」の比較を行うことにより、その地域の植栽樹種を選択する手法等として応用が可能です。また、苗長・根茎の太さを測定し、その比率で苗木の良否の判定を行なっています。
 これら現地で行なっている測定等の調査については中国側技術者等に調査野帳の項目を示し、その目的等を説明することにしています。私どもとしては、現地調査での知見を重ねて、実際の現地での植林作業に役立つアドバイスができるよう心がけています。
 
これまでの主な指導内容
 これまでの巡回技術指導において話題となり、また、留意すべき主要項目は次のとおりです。
 
@ 植林面積の把握
 植林緑化事業を実施する上でもっとも基本となるのは面積の把握にあります。現在、中国では、
 
  @ GPS測量により面積を把握
  A コンパス測量により面積を把握
  B 地図上の地形・地物を利用し、植林地をフリーハンドで結び、プラニメーターにより面積を把握
 
 するなどの方法がとられています。
 
 苗木を購入し当初予定の植栽密度で苗木を植栽したら、苗木の過不足を生じ、結果として苗木の植付間隔、すなわち、植栽密度を調整することにより対応したという事例も見受けられます。植栽密度が異なると将来目的とする森林の造成が困難となる場合もあり、植林を行う場合には、正しい面積の把握が不可欠であって、面積把握には、現地に適合した誤差を生じないような方法を採用していただきたい。
 
A 大面積単純植林
 大面積に同一の樹種を造林した植林地では、病虫害が発生した場合壊滅的な被害を受ける可能性が高く、極力これを避ける必要があります。なお、性質の異なる2種類以上の苗木を植林し混交林とする場合には、樹種毎の成長を予測し、被圧の被害が出ないようにすることが肝要です。
 
B 苗木の管理
 特に乾燥には注意をする必要があります。「苗木と魚は水がないと死んでしまう。」からです。苗畑での堀り取り・苗木の輸送・事業地内の運搬などの要所要所では、手間がかかっても乾燥防止策を徹底する必要があります。なお、忙しいからといって原理原則を疎かにしないようにと、中国の教科書の「苗木の乾燥」に関する記述の抜粋を手渡すことにしています。
 
C 植林密度
 植林密度は、植林の目的、樹種の特性、立地条件などによって決定すべきものです。
 植林密度は、中央及び各省で造林規定等が定められており、これらに準拠し樹種毎の植林密度を決定することが必要です。したがって、現場では、これらの規定に反し安易に植林密度を変更しないことが必要です。
 
D 大苗・小苗の採用の検討
 中国においては、植林時、大苗を植栽する傾向が見受けられます。
 大苗は、ア 苗木代が高い。イ 輸送・林内運搬にコストがかかる。ウ 植穴を大きくしなければならない。エ 植え付け本数が少なくなる。等の傾向がある。一方、小苗は、下刈の回数が増加するという欠点を有します。
 大苗・小苗による植栽の功罪をよく考え採用を決めることが必要です。
 
E 施肥量の決定
 森林は、基本的には森林及び森林土壌内の養分循環によって成り立っています。しかしながら、伐採跡地あるいは植栽後間もない幼齢林では、腐植質及び無機養分などが流失しやすく地力の低下が生じやすくなります。このために腐植質及び無機養分などの消耗の期間を少なくし、これら幼齢林の葉量を増大させて、有機物・養分の循環量を大きくすることが望まれます。これらのことから、植林に際し、施肥を行うことが多く行われていますが、肥料の種類及び施肥量は、できうる限り、当該植林地の土壌養分の分析結果を参考にして決定することが望まれます。
 
F 灌水
 乾燥地帯では、灌水が植林の成否を決定づけてしまうこともあり、コストがかかっても実施しなければなりませんが、その方法は人力によるもののほか、スプリンクラー、ドリップ、噴霧等によるものなど、地域によって多様です。いずれにしてもその地域の実情に合致し、十分その機能を発揮できる方式を採用することが肝要です。
 
G 病虫害防除
 病虫害の防除は、地域の予察情報に基づいて適切に実施することが必要です。病虫害防除の計画があるからといって、むやみに薬剤散布を行うと、むしろ害虫の天敵を減らしてしまう恐れがあるなど非効率な結果に終わる可能性もあります。
 
H ボランティアによる植林
 ボランティアの参加による植林は、植林の重要性を普及啓発する上で重要な要素ですが、事前に植林方法について良く指導をしておかなければ、植え付け方法が適切でなく、再度植え替えを行う必要が生じたり、不成績の植林地を発生させることもあるため植林前に十分事前の指導を行う必要があります。
 
I 計画の変更
 事業着手前あるいは実行途上で、植林箇所の変更や植栽樹種の変更などが余儀なくされるケースが見いだされます。この場合、「要綱」等の規定により事前に変更手続きを行う必要性が発生する場合もあり、速やかに日本側事業実施団体に通報の上、適正に対応する必要があります。
 
J 森林管理図簿の整理保管
 植林地造成過程において、その植林地の取り扱いに関する記録を整理しておくことは、将来に向けての各般の指針となり得るものです。現在、国家林業局により「森林管理図簿」の作成についての指導が行われているところですが、各プロジェクトとも、この「森林管理図簿」の整理保管に努める必要があります。
 
K 保育・保護・管理体制の確立
 植林が成功するには、植え付け後の長期間にわたる植林地への保育・保護・管理が極めて肝要です。助成措置終了後の保育・保護・管理の実行責任機関は、事業計画策定前に決定しておくなど保育・保護・管理体制を確立しておく必要があります。
 
L 地域社会との連携
 植林が成功するか否かは、地域住民の協力に負うところが多いことは言うまでもありません。住民の意向を尊重し、経済林の造成や木場作(樹下等での農作物の栽培)の実施、いわゆる「三農対策」などの制度も活用したよりよい関係の醸成を図る必要があります。
 また、植林緑化事業のPRは、日中両国民の友好を深める上で非常に大切な要素であるので、機会をとらえ積極的に行なっていく必要があります。
 
M 機械化等
 現在、中国農村部では人手が潤沢で、どのような作業でも人力で作業することが多く行われていますが、今後高度経済成長が進み、若い労働力が都市部に集中化していくと、近い将来農村部では重筋労働従事者が減少することも予想されますので、今から機械化等の対策を講じておくことも必要ではないかと考えられます。
 
おわりに
 巡回技術指導は、技術的意見交換や指導もさることながら、「基金」と現地のカウンターパートが直接話し合える数少ない機会でもあることから、できるだけ座談の時間を確保してもらい「基金」からの情報提供、現地の要望の把握なども行なっています。
 巡回技術指導の派遣職員一同、日中緑化交流基金による緑化事業が成功裏に進められるよう、技術的な研鑽に努めていきたいと考えています。
 

〔平成21年度巡回技術指導 土壌硬度測定〕
(社)海外林業コンサルタンツ協会・河北省林業局
「河北省漕河上流水土保持林造成計画」


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