第11回「冬のブナ林散歩」
 大学1年生に実際の山野を体験し、理解して貰おうと開講しているフィールド実習で最近冬の群馬県みなかみ町周辺の雪のブナ林を歩いています。今回はそこの生物を紹介します。ブナ林に入ると、所々に熊棚が雪を抱えているのに出会います。木の実や葉などを食べるとき、クマが座れるように枝で作る座布団が熊棚です。

↑熊棚
 この棚を作った熊は冬眠中でしょう。この木はミズキで、枝が一定の間隔で階段状に出ているのが特徴です。
 植物は春に成長する部分を、色々な方法や形で保護して冬を過ごしています。厳しい季節を生き延びるために、獲得し鍛え上げた形は芸術的です。目につく大きな芽はゼラチン質のようなヌメリのある成分をまとったトチノキです。

↑トチノキ
 筆の穂先のようにとがった先端を持つ大きな芽はホオノキです。

↑ホオノキ
 ともに芽鱗という小さな鱗状の皮を幾重にも重ねて芽を覆っています。雪山の主役のブナの冬芽は、細かい芽鱗で武装した細長い先端を鋭く外に向けています。

↑ブナ
 芽を包む鱗片を作らずに、葉そのものを防寒具にして芽を保護しているのはムシカリです。

↑ムシカリ
 花芽との組合せがウサギのようだと好評でした。特徴のある翼を張りだした果実はヒロハツリバナです。

↑ヒロハツリバナ
 ツルウメモドキの太い蔓が、ブナの幹に絡みついていました。

↑ブナに巻き付くツルウメモドキ
 ツルの締め付けがきついために、光合成で作った同化物の運搬が阻まれて、溜まっているのがよくわかります。このツルウメモドキは、静かなモノトーンの雪景色に、赤い実で賑やかさを演出しています。

↑ツルウメモドキの赤い実
 ネズコ(クロベ)の下枝が、雪に埋もれて引っ張られていました。

↑引っ張られる枝
 積もった雪が、少しづつ沈んで行くときに、埋もれた枝を引っ張るのです。時には、枝が抜けてしまうことがあります。これを「自然枝打ち」とも言います。雪国の樹木の下枝が下方に垂れるのはこれが原因ですから、雪がどの位積もるのかをみる指標になります。積雪の指標には、ブナの幹の色も使えます。普通、ブナの幹には地衣類や苔などが付着して、黒っぽいまだら模様をしています。積もった雪が締まり、徐々に沈んで行くときに、ブナの幹の付着物を削ぎ落とします。ですから、雪が積もる地域のブナの幹には、ある高さ以下が白っぽくなります。

↑幹の白いブナ
 写真の年は、例年よりも1m近く積雪が少なかったので、雪の上にその白い部分が目立っていました。  雪の上には、動物の足跡が残ります。フィールドサインといいます。雪の上で繰り広げられる出来事を推定して学生らははしゃぎます。

↑ウサギの足跡

↑交差する足跡
 2月ですが、もう冬の日射しではなく、幹を伝って下降してくる太陽の熱は、幹の周りの雪を溶かします。

↑根元に穴のある林
 この後に雪が降ると、冬の散策者の罠になる落とし穴ができます。雪山の色々に注意を向けると、無雪期とは違った楽しみがあります。春はもうそこです。

プロフィール
氏名 桜井尚武(さくらいしょうぶ)
日本大学生物資源科学部森林資源科学科 教授
専門 造林学、森林生態学
e-mailアドレス
ssakurai@brs.nihon-u.ac.jp

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